2021/12/31

安来ぶらりチャリツアー 地元の人も知らない魅力を自転車で再発見!

どじょうすくいの安来節で有名な島根県安来市は、古くからたたら製鉄によって作られた鉄鋼の積出港として栄え、現在は日立金属が生産するヤスキハガネが全世界に輸出される鉄鋼業が盛んな土地である。

2021年12月上旬、観光協会さんとの打ち合わせやサイクリングのモニターツアーに参加するため安来を訪れた。

12月3日(金)20時過ぎ、東京駅から憧れの寝台特急サンライズ出雲に乗るため自転車で会社を出発する。

サンライズ瀬戸・出雲は車内販売が無いため、事前の買出しは必須だ。

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21時25分頃、東京駅の9番ホームの左側からサンライズ瀬戸・出雲が入線してきた。この特急は14両編成の1~7号車がサンライズ瀬戸、8~14号車がサンライズ出雲の編成で、岡山駅で切り離しを 行うのだ。

寝台車に乗り込むと通路は大人一人が通れる程度。自転車を持っているとすれ違いができないので、譲り合いながら寝台個室に向かう。

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予約したB寝台「シングル」は2階建ての1階部分である。個室の扉を 開けると解放感のある大きな窓と、枕と浴衣と毛布が置かれた幅70cmほどのベッドが現れた。

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扉の脇にはノートPCを置いて作業ができそうなテーブル(コンセント付き)、ベッドの脇には手荷物が置ける幅20cmほどの板張りと、壁の上にはハンガーが一つ。ベッドと入口の扉の間には幅30cm ほどの靴を置くスペースがあり、立って着替えることも可能なのでカプセルホテルよりも快適そうだ。

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個室の入り口は4ケタの暗証番号でロックできるため、トイレなどで外に出るときも安心である。

今回はブロンプトンで輪行したが、畳んだ状態で入口のスペースにジャストサイズで納めることができた。

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21時50分に東京からサンライズ瀬戸・出雲が発車。車窓からの風景を眺めながら晩酌を楽しむのが鉄道旅の醍醐味だ。普通列車や新幹線とは一味違う寝台が旅の高揚感を増してくれる。

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■12月4日(土)

6時半頃、岡山駅でサンライズ瀬戸と出雲が切り離された。

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しばらくすると太平洋沿いを進んでいた列車が伯備線に入り、車窓の景色も山あいとなる。

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朝7時頃日の出を迎え、空が明るくなってきた。


9時20分、7分遅れでサンライズ出雲が安来駅に入線。

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東京を出てから11時間30分の贅沢な寝台列車の旅を堪能し、目的地である安来市に到着した。

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朝食をまだ食べていなかったので、安来駅前の喫茶店「茶々」(https://yasugi-kankou.com/uncategorized-ja/4388/) でモーニングメニューを食べる。

トースト、サラダ、卵、味噌汁とコーヒーのセットで550円。リーズナブルでお腹も満足だ。

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朝食の後は安来市観光協会の門脇さんが同行してくださり、三人で自転車に乗って周囲を散策することになった。

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安来駅の目の前はすぐ港だ。

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駅から中海方面に向かい、海沿いの道を進むと15分ほどで「十神山なぎさ公園」(https://yasugi-kankou.com/see/691/) に到着。

予約が必要だが無料でキャンプができる、地元でも知る人ぞ知るスポットである。

さらに海岸沿いを進むとお城のような不思議な建物を発見。元議員で古物商を営んだ方のご自宅だそうだ。

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その近所に木曜~土曜のみ開いているという無人販売のガレージ「十神山なぎさ直売所」(https://www.instagram.com/nagisa__market/)を発見。

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農産物や穀物だけでなく、お土産にも良さそうな手芸品などのアイテムが並びついついあきひめ(700円)と紫檀のスプーン(300円)を手にとり、料金箱にお金を投入した。

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海沿いから安来駅方向に戻る。駅の西側には、江戸時代から鉄を日本各地に運ぶための港町として賑わっていたという歴史を感じる町並みが広がっている。

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安来市内のマンホールはどじょうすくいがデザインされていた!

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サイクリングのお供におやつは必須であるのだが、駅前の商店街にある「くまのプーさん」の大判焼き(100円)が想像を超えていた。

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大判焼きと聞ききつね色を想像していたが、白い生地はつきたての餅のような柔らかさと弾力があり、あんこはあっさり。腹持ちがよさそうな満足感に浸れる。昼食前なのに、ついつい二つ目に手が伸びそう な味だ。クリーム、チョコ味もあるし、他には焼きそば(400円)もある。育ち盛りの学生さんも500円で満足できそうだ。

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昼時になってきたので、民芸そば「志ばらく」(https://yasugi-kankou.com/gourmet/752/)にお邪魔する。

なまこ壁の建物は大正時代からだそうで、店内には各地の民芸品が並び、心地よい懐かしさを感じる店だ。

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蕎麦と言えば「ざる」、「もり」、「かけ」だと思っていたが、釜揚げ蕎麦(700円)には驚いた。丼の中には茹で上がった蕎麦とたっぷりの蕎麦湯。甘しょっぱいそばつゆをかけて食べると、蕎麦湯をま とった柔らかい口当たりの蕎麦につゆがからみ、ほっこりと体を温めてくれる。

12月の島根にぴったりの味だ。

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かき揚げ(650円)と、せっかく島根の島根なので割り子蕎麦(250円x3)も頂いて満足である。

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昼食後は安来駅から12㎞程離れた広瀬町に向かう。

その途中で白鳥ロード(https://yasugi-kankou.com/hpa/白鳥/)を通ると数えきれないほどの白鳥が羽を休めていた。冬になるとシベリアから渡来する白鳥のために刈り入れ後の水田に水を入れているのだ。

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広瀬町は200年ほど前から西日本で三本の指に入る広瀬絣の産地として栄えた地だ。
紺屋、つまり染物屋はかつて広瀬に7件ほどあったが、現在一件だけ残っているという「天野紺屋」 (https://www.amanokouya.com/) にお邪魔した。

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現代ではデニムと言えば天然藍の色成分を化学的に合成したインディゴ染料が一般的だが、こちらでは植物の蓼(たで)から取れる天然藍を使用した伝統的な藍染を行っており、予約をすれば藍染体験をさせ て頂けるのだ。

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天野紺屋の創業は1870年。到着すると5代目の天野尚さんが出迎えてくれた。まずは本業である糸染めの現場で藍染についての説明をしていただく。

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まず、蓼を発酵させた蒅(すくも)からなる藍染の液はもともと茶色だが、空気に触れると青く変わり定着する。次に、藍染は一度では淡くしか染まらないため、濃くする場合は何度も染めることが必要である。そして、藍染液の 中に生息している微生物の働きで染まる。これらが染める上でのポイントなのだそうだ。

もともとは糸染め専業だったが工房には機織り機もあり、生産量が減った今だからこそ広瀬絣を織っていると話されていた。

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布染めの工房に移動し、いよいよ染め物体験を行う。

まず、染めるためのTシャツやストールを選ぶ。
私は通気性がよさそうな目の粗く開いた麻のストールを選んでみた。

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テーブルの上に広がった見本を見ながら、希望の柄の出し方を教えて頂く。色を付けたいところはそのままで、白く残したいところに輪ゴムを巻き付けるのだ。

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いよいよ染色だ。最初に染める生地をお湯の中で揉む。
続いて茶色の染め液の中に生地を入れ、繊維の中に液がまんべんなく染み込むように60秒ほどやさしく手で揉む。

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生地を引き上げて広げ、軽くたたくようにしながら空気に触れさせると、茶色から青へと色が変わっていく。どの程度の色に染めたいか相談しながら、染め液に漬け空気に晒す工程を繰り返し、お湯ですすい でから脱水し、広げて乾かすと鮮やかな藍色に染まったストールが完成した。

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所要時間は2時間ほどで自分だけの藍染製品を持ち帰ることができる。(要予約体験料、材料込みTシャツ4000円、ストール5000円)

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広瀬町の近くには年間60万人以上が訪れる「足立美術館」(https://www.adachi-museum.or.jp/) がある。

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安来市出身の実業家・足立全康が収集した横山大観をはじめとする近代から現代の日本画や北大路魯山人の陶芸、童画、木彫、漆芸などを鑑賞できるほか、5万坪の日本庭園はアメリカの日本庭園専門誌によ る日本庭園ランキングで18年連続1位に輝くほどだ。

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横山大観の名画「白沙青松」をモチーフに作庭された「白砂青松庭」。

なだらかな白砂の丘陵に大小の松が絶妙に配置されている。

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足立美術館と安来駅をつなぐ無料のシャトルバスが1日17往復運行しているので、自転車以外の旅でも十分楽しめるだろう。(入館料2300円)

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足立美術館から徒歩1分のところには、薬用高いラジウム泉の温泉旅館「さぎの湯荘」(https://www.saginoyusou.com/) もある。広瀬町で藍染体験を行い、足立美術館をたっぷり楽しむには絶好の宿泊場所だ。

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客室の扉には天野紺屋さんの藍染生地も使用されている。

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日帰り入浴(700円)も可能で、露天風呂に入ると紅葉がライトアップされて、いい気分だ。

体を温めてから安来駅に戻った。

宿泊は安来駅から徒歩数分でアクセスできる「ホテルひさご家」(https://www.hisagoya.info/) を利用した。

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2021年12月現在、安来市では対象の宿泊施設を利用すると、宿泊料金が3000円を上限に1/2を負担してくれるだけでなく、和鋼博物館、金屋子神話民族間、安来市立歴史資料館の入場券に加え、 対象店舗で利用できる合計2000円分の商品券を配布している。

2022年2月28日(月)まで実施しているため、安来を訪れる際は是非利用したい(https://yasugi- kankou.com/event/安来に泊まってお得に観光~やす得!キャン ペー/

夕食は安来駅前の「山陰海鮮炉端かば」(https://robata-kaba.jp/)安来本店に向かう。新型コロナの流行が心配な時期ではあるが、個室を予約したので安心して食事ができる。

せっかく山陰に行ったのだから蟹を食べたいと思い予約時に相談したところ、カニ鍋と焼き蟹を用意して頂けた!

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山陰の魚を堪能すべく刺身の盛り合わせ「かば桶盛り」を注文。大きな椀の上に船などが重なるダイナミックな盛り付けが登場した。

初めて見る盛り方で、見た目も味も楽しめる。

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せっかくなので広瀬町の吉田酒造(https://e-gassan.co.jp/)が作る日本酒「月山」を注文す る。口当たり良くまろやかでうまい。

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地元ならではのメニュー「赤天」も外せない。

衣が付いた赤いカマボコのようで後からピリッとした辛さが楽しめる。マヨネーズをつけて食べると辛さがマイルドになり酒のアテにもってこいである。

飽きるほど蟹を食べ、地元グルメに舌鼓を打つことができた。

「山陰海鮮炉端かば」は島根だけでなく関東、山陰、関西・山陽にも出店している。得意先との食事などで都内の店舗に行ってみようと思った。

■12月5日(日)

朝9時。安来駅の観光交流プラザ「アラエッサ♪YASUGI」(https://yasugi-kankou.com/information-center/) を訪れた。自転車で安来を楽しむサイクリングモニターツアーに参加するためだ。

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駅のホームでは「どじょうすくい出迎え隊」の皆さんが、踊りの衣装とひょうきんな動きで下車する皆さんを出迎え、記念撮影にも応じていた。

毎週日曜日に行っている活動だそうなので、日曜着で予定を組めば、到着した瞬間から気分が盛り上がること間違いなしだ。

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安来ぶらりチャリモニターツアーの参加者は11名で、安来駅のレンタサイクル(https://yasugi- kankou.com/information-center/レンタサイクルサイクル ステーション/)を利用することも可能である。

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駅のロータリーで「どじょうすくい出迎え隊」の皆さんや駅長と一緒に記念撮影をしてから出発だ。

中海沿いを西に向かうと、車通りも少なく10名程度でも走りやすい。

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みさき海浜公園では十神山から安来港を一望できる。

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海を眺めながら地名の由来を教えてもらった。スサノオノミコトが安来に着たときに「我がみこころはやすけくなりぬ」と言ったことに由来するため「やすき」と発音するほうが正しいのではないかという説 もあるが、住民としては濁らないと落ち着かないとのことである。

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堤防沿いを進み、農園が広がるエリアに入ると立派なサボテンが並ぶビニールハウスが目に入った。

持ち主の方がいらっしゃったのでお話を伺うと、いちご農家の方が趣味で育てている「金鯱」という品種で、大きなものは70年以上のものもあるそうだ。

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海沿いに広がる荒島地区の田園を通り抜けていると小雨が降ってきた。コンビニで休憩を兼ねて雨宿りをしていると雨はやんだが、参加している方が山陰の天気は変わりやすいと教えてくれた。

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山陰本線の踏切を超えるとすぐに「古代出雲王陵の丘、造山公園」(https://yasugi-kankou.com/see/679/) に到着。ここは全国最大の方墳があり一号墳からは銅鏡など が出土したそうだ。公園の駐車場に自転車を置き高台に上ると、前方後方墳の上から島根半島や中海が一望できる。

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島根半島は国引き神話において、出雲の国を作った神が少ない国土を増やすために現在の韓国と東北の一部を切り、山に縄をかけて引っ張ってきて繋げたとされる。壮大なスケールだ。

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再び田園を通り抜け、ゆっくり40分ほど走り「和鋼博物館」(http://www.wakou-museum.gr.jp/) に到着。

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2階のレストラン「安来グランパ」(https://yasugigranpa.com/)でランチを頂く。

スキレットに乗ったチーズ乗せハンバーグがジューシーで、お腹も満足だ。

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昼食後は、和鋼博物館内を案内していただく。

現在も行われているたたら製鉄の映像を見せて頂いてから展示室へ。

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奥出雲の砂鉄で行われるたたら製鉄は、江戸時代まで非常に盛んで、作られた鉄は日本各地の金物の産地に送られ、その品質の高さで安来は大変にぎわったそうだ。しかし、大変優れた品質である一方で、大 量の砂鉄と木炭を使用するため生産効率が悪く、江戸時代以降に衰退した。現在は日本美術刀剣保存協会が奥出雲でたたら製鉄(日刀保たたら)を行い、全国の刀匠に提供を行っている。

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館内は砂鉄の採取方法やたたら製鉄の炉の構造などが模型で分かりやすく解説され、たたら製鉄で作られた玉鋼の展示もある。さらに希望者は日本刀を持つ体験も可能だ。刃は付いていないが1kgほどの重 さの日本刀を持つと非常に重く感じ、背筋が伸びる感覚がする。試合前のアスリートも精神統一を行うために日本刀を手にする方もいるそうだ。


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博物館入口ではたたら製鉄で使われていた、足踏み式の天秤ふいごで風を送る体験もできる。
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ミュージアムショップでは日立金属のヤスキハガネを使用した刃物を販売しており、どじょうをモチーフにしたペーパーナイフや肥後守ナイフ、包丁などを購入できるが、この日は閉店時間の15時を回って いたので見られず、残念な思いをした。

昨日の足立美術館もそうだが、1時間ほどの滞在では全く時間が足りず、改めて安来に足を運びたくなってしまった。

15時20分ごろ安来駅に戻り、サイクリングツアーが終了した。

30kmに満たない距離だが、安来の景色や文化に触れられるコースで、初心者からベテランまで十分楽しめるだろう。

行きは寝台列車の旅を楽しんだが、帰りは飛行機を使う。

安来駅からは在来線で50分ほど、自動車では30分ほどで米子鬼太郎空港に行ける。

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若干の余裕があったので安来観光交流プラザのお土産コーナーで買い物をする。

宿で頂いた宿泊特典券が2000円分あるため、お得に買い物ができた。

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17時に空港に到着しチェックインを済ませる。

17時35分に米子を出発し19時に羽田に到着する1時間半ほどのフライトである。寝台列車の旅を楽しんだ往路とは違うが、夕方まで楽しんでも夜には帰宅できるメリットは非常に大きかった。

二日間、安来を旅することとなったが、巡ったエリアは高低差がほとんどなく、車通りも比較的少ないため、自転車があれば安来エリアを十分楽しめる。
一方で、足立美術館や和鋼博物館については、1時間程度の滞在では閲覧時間が全く足りず不満が残り、すでに再び訪れたい気持ちでいっぱいになっている。時間にかなり余裕を持ったスケジュールを組むことをお勧めしたい。

安来駅併設の観光交流プラザではレンタサイクルや荷物預かりサービスも行っているため、ホテルにチェックインする前の市内観光に活躍しそうだ。

電車待ちの時間を有効活用できるし、マンホールカードも配布している。

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後日譚として、帰宅してから購入したお土産を味わったのだが、吉田酒造の月山の純米吟醸が非常に良かった。

「奥さんも呑みます?女性におすすめなのがこれなんです」と案内してもらい購入したのだが、グラスに注いですぐに梨のように華やかな香りが漂い、期待しつつ一口含むと、完熟の梨の香りが口の中を満た し、味は華やか、そしてまろやか。

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日本酒でありがちな雑味やアルコールの角を感じず、喉元過ぎればスッキリした後味と華やかな香りだけが余韻として残るキレの良い日本酒であった。

見つけたら是非。

最後に、この旅でお世話になった観光協会さんの問い合わせ先も。

安来市観光協会
〒692-0011島根県安来市安来町2093-3 観光交流プラザ内(JR安来駅隣)
TEL:0854-23-7667 FAX:0854-23-7654
E-mail:mail@yasugi-kankou.jp
https://yasugi-kankou.com/

安来駅で降りたら是非立ち寄ってほしい。今回のように知る人ぞ知る穴場スポットを教えてもらえるはずだ。

(文:トモ 写真:ロッキー/トモ)